10月の20日頃に
ちょっとしたお礼の品に用意した写真です。
数年前にルーマニア・ブラショフの旧市街を撮影した一枚で、深夜のアトリエを暗室の代わりにして引き伸ばしたものです。マットは700番、額縁の色にはF&Bの243番を選びました。
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10月17日
シス書店「シュルレアリスム宣言100年」展へ
この展覧会に寄せられた巌谷國士氏の文章に惹かれて、リーフレットを買い求めて帰宅しました。
氏の翻訳による岩波文庫版『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』は、今も僕の本棚のすぐ手の届くところに並んでいます。
《 読者が「自らに由る」ことを前提に、与えられた通念や常識や、教条や戒律や、さまざまな同調圧力から自由になろうとしている場合にこそ、この特異な宣言と小話集との合成本は、生き生きとした自由の書になるのだろう。》
そう、どれだけこの本に力をもらったことだろう。(僕にとってシュルレアリスムというのは、けして独特な表現手法の芸術のことじゃなくて、当たり前のことを当たり前にやるんだという、心意気です。)
このリーフレットから、それがアンドレ・ブルトンの言葉であるとともに、巌谷國士氏の眼差しでもあることに気づかされて、大変に感じ入りました。
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9月21日、紀尾井ホールへ
一絃琴演奏家の友人からお知らせをいただいて、邦楽の演奏会へ伺いました。この日の最後に演奏される曲に客演として参加されるのだそうです。
いろいろと想いを巡らせながら聴いていましたが、プログラム最後の曲に感情をくすぐられたのは、その旋律だけが理由ではないと思います。
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9月11日の20時に
小学校のときに同じクラスだった友達が漆芸作家であることを知って、少し前からSNSで繋がることができていたのですが、この日、本当に久しぶりに会うことができました。最後に会っているのは二十歳のころだと思うので、34年ぶりでしょうか。
彼は現在は富山に住んでいて、都内で開催されている日本伝統工芸展の会議の折で実家に帰省したのだそうです。
地元のスーパーの駐輪場で待ち合わせて、自転車を押しながらいろいろ話しつつ、僕の仕事場に案内してお茶をしました。ここで人をもてなすことは無いので、とりいそぎの紙コップでお茶を注ぐ感じです。
いろいろなことを話せました。彼もイタリアに滞在していたことがあるそうで、お互いの共通点にびっくりしながら夜遅くまで話し込んでしまいました。イタリア・ルネサンス期でも細かい分野の芸術家の話から、ボール盤の軸ぶれ対策のことまで…、いつかのおしゃべりの続きのようでした。
この翌日に千葉市立美術館へ Nerhol 展を観に出かけることにしていたので、その足で日本橋三越で開催中の日本伝統工芸展へ伺って作品を鑑賞させてもらうことにしました。
会場で本人には会えなくても作品はここにある、という感じ。こんな感覚を共有できる友人と再会できたことが本当に幸いでした。
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8月9日
西洋美術館の写本展へ
中世の画工や写字生に想いをはせる
帰宅したら、郵便受けに天国の篠原先生からの御本が届いていました。
53年前に出版された先生の本が増補新装版として出版されたのだそうです。先生の奥様とスタッフの方が私たちに手配くださったのだと判りました。
頁をめくると当時の先生の文字を描く姿が載っています。ふと、あの頃の教室の風景、本館と図書館棟とをつないでいた通路付近のちょっと暗くて入り組んだ感じとか、たしか少人数向けだった教室の感じ。授業ではいつも先生がお手本を描いて見せてくださったことなどを思い出しました。
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work in progress
完成を信じて(がんばれ、自分)
bricolage
8月7日 工具箱を手に入れる/手を入れる
ずっと使ってきた工具箱の留め具がとうとう両方とも割れてしまって、買い替えの時かも…と思っていたのですが、いつも通りかかる中古工具店で偶然に伊BETA社のツールボックスを見つけて、買い求めることにしました。
ハンマーで歪みと打痕を修正して、溶接の外れそうな箇所には接着剤を隙間に詰めてからリベットを打ちました。前所有者の痕跡を参考にして蓋の裏側にマグネットを貼ってみると、ほどよい感じで蓋の開閉ができるようにもなりました。
こうして手を入れることで、だんだんと自分の持ちものになっていくような気がします。
廃棄しようと思っていたツールボックスは、針金を使って直してみました。
毎年購入している葛西薫カレンダーの吊り金具がしっかりとした針金でできていて、なにかに使えそうにと思って、捨てずにとっておいたものがあります。これをバイスで曲げ加工して部品の代わりとしました。いちおう蓋を留められるようにはなったので、軽いものを入れるケースとしてもう少し手元に置いておきます。
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7月10日頃に
taccuino;手帳、メモ帳
ときどき自分のパレットにメスを入れること
絵具箱の色の並びを変えてみたりして
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5月16日の午後3時
ポルトガルから日本旅行に来られたご夫婦と浅草雷門前で待ち合わせて、夕方までの時間を一緒に過ごしました。
ご主人はイタリアの方で、ご夫人はポルトガルのオリーブ農園でお仕事をされている方です。
都内で数日間の滞在のあと、鎌倉や大阪などへ立ち寄りつつ、オリーブ産地で有名な小豆島への視察を予定されています。ご主人のパオロさんにとっては37年ぶりの来日なのだそうです。小豆島への道すがら、ご友人との再会も楽しみにしていらっしゃる様子でした。
この日記を書いているのは6月の2日で、まもなくお二人の帰国の日となるはずです。どのような心持でいらっしゃることでしょう。
お別れ際に頂戴したオリーブオイルを、朝食のサラダにかけていただいています。
私たちの待ち合わせ場所となった雷門周辺の混雑には、パオロさんは「まるでヴェネツィアみたいだ」とおっしゃいます。たしかにオーバーツーリズムで有名なかの地を思い起こさせるような光景で、僕もここまでとは思いませんでした。共通の友人を通して事前にメールのやり取りはしていたものの、初対面だったので、自分の着ている洋服の色を追伸したりもしました。
ここから避難するように銀座線に乗り込んで、散策の候補のひとつだった根津美術館へ。ところがなんと、展示替えで休館中です。
「君のせいじゃないよ」。そう声をかけていただきましたが、このことで、自分がまったく冷静な状態ではないことを思い知りました。仮に入場できていたとしても、閉館時間が迫ってゆっくり鑑賞することは出来なかったはずです。
片言のイタリア語で話をしていると、日本語もカタコトになっていきます。そこそこには利用しているはずの地下鉄の乗換えさえもがおぼつかなくなっていて、方向感覚を失っています。浅草駅から表参道駅までの所要時間を分かっていても、駅の改札を抜けてから美術館まで何分歩くことになるのか。そんなことを考えるのも抜けてしまっていて、自分もすっかりと観光客のひとりになったようでした。
ご夫人のアナさんが「シャンゼリゼ通りみたい…」と、たしかにそうだな…と思いながら表参道をすこし歩いてから、銀座線に戻ってお二人の宿泊先の浅草橋駅に向かいました。地下鉄の中、パオロさんに37年前と現在の東京の印象を尋ねると「みんなスマホを見ているね。まえはみんな寝ていたよ。」(そういう自分も浅草橋駅付近のお食事処を必死に検索している)。
愛煙家のパオロさんには、ちょっと息苦しい東京観光だったかもしれません。
「街じゅうが禁煙なのを知ってたら日本には来なかったよ…」、交差点に設置された喫煙スペースについては「(喫煙者の)刑務所だ」、「37年前には電車の中でも煙草が吸えたのに」。
ユーモアにあふれる最後の名言は「今度こちらに来たときは君が払うんだよ」。これは食事の会計でご馳走になってしまった時にいただいた言葉です。
JR浅草橋駅の近くに喫煙可能な居酒屋をみつけて、夕食をご一緒しました。ご夫人のアナさんは、日本の食事の席でのマナーについてとても詳しい方でした。そのほかにも、陶器や金継ぎなどにも興味をもっていらしていて、陶芸をやっているご家族(娘さん…だったかしら)からは陶芸用品の買い物の頼まれごとがあるご様子でした。
娘さんだったか、妹さんだったのか…。そのくらいもうまく聞き分けられないのが僕の語学力の程度です。
日本酒がすすんで、パオロさんが谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』にふれて語ってくださっています。
居酒屋の店内の灯りにも眼を向けながら、光と陰について、機微に触れることばを語ってくださっていたはずです。パオロさんはきっと、僕が話の全てを理解できていないだろうことも判っています。
お客がだんだん増えてきて店内がにぎやかになる中で、僕は集中してことばを聴いて、なにかが掴めたら頷いて合図しました。パオロさんの身振りや視線、言葉と言葉の間、自分が聞き取れた単語や動詞の変化、その前後に考えられる文脈を必死で想像しながら聴きました。
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5月9日 16:50~
非常勤講師を勤めている大学で自分の仕事や作品について話す講義回があって、連休の後半からは講義原稿の手直しをしていました。1年生向けのオムニバス形式の授業科目で、先生が毎週変わって登壇してそれぞれの専門分野について話します。
毎年のことなので慣れてきたと思っているのに、180人以上の学生がぞろぞろと着席してきて、授業開始のチャイムが鳴って教室が静かになってくると、急に緊張してしまいます。原稿の一部を飛ばしてしまったり、パワーポイントの画像が消えたまま話を進めてしまって、学生が教えてくれたり…というありさまです。終わった後はしばし放心状態で、職員室で休憩してから帰宅しました。
いまは学生から届いてくるレポートに目を通して、希望者への返信を少しずつ書いているところです。